多職種連携に必要なものは?

在宅医療の現場から

※初出:どくとるマンボウ在宅記(初出:へるす出版『在宅新療0-100』第2巻第1号 2017年1月)

現在の診療所に勤務するようになり、在宅専門診療所ならではの事例に数多く接する中には困難事例もあります。在宅療養を支える為には多職種の関わりが必要ですが、特に困難事例の場合には多職種が密に連携して業務に当たる必要があります。

先日、ある問題を抱えた乳がん患者の在宅療養を支える為に、多職種が力を合わせて看取りまで達成した事例を経験しました。多職種連携を具体的にどうすれば良いのかという問いに対し、ひとつの答えになるのではないかと思い紹介します。

介入困難な乳癌患者の事例

訪問診療開始の経緯

50歳代の女性で精神発達遅滞の方が、統合失調症の弟と二人暮らしをしていました。対人関係を築くことが不得意で、世間から孤立するようにひっそりと暮らしていました。

1年以上前から右乳房に違和感があり、徐々に痛みが出現するも放置していました。長年入っているヘルパーの強い勧めで病院を受診したものの、精査のため生検が必要との説明を受けてパニックとなり、それを拒否して帰宅しました。そこで、今後を心配した外来の乳腺外科医の紹介で、緩和ケア目的での訪問診療が開始となりました。

介入には時間が必要

初めて訪問した時には、既に体表面に癌組織が露出しており、痛みの為に夜間睡眠も出来ない状態でした。痛みをとる為に、麻薬(オキシコンチン)の定期内服と、レスキュー(オキノーム散)の頓服を勧めたところ副作用を気にしたので、便秘と嘔気があることを説明し便秘薬や制吐薬を併用することを伝えました。はじめは「吐き気は嫌です」と拒否していましたが、「痛みを抑える為に一度飲んでみましょう」と繰り返し説明したところ渋々納得してくれました。

その夜のことです。麻薬の効果で久しぶりに痛みがとれ食欲が出てきたようです。これまでの痛みで食事量も減っていた状態の中で、急に大量の食事にデザートまで食べたところ、程なくして嘔吐してしまいました。すると、麻薬を飲んだから嘔吐したと思い込み、その後の内服を拒否してしまいました。そこで、訪問薬剤師が親身になり毎晩のように訪れては1時間以上もじっくりと説得し、何とかレスキューのオキノーム散だけは飲むことになりました。

情報共有の必要性

障害相談員とヘルパーは10年上の関わりがありましたが、訪問診療を開始してから新たに沢山の職種が関わるようになりました。訪問看護師、訪問薬剤師、訪問リハビリ、訪問マッサージなどです。

この方は何か気になることや不安があると、自分が納得するまで誰彼構わず何度も同じ質問を繰り返し尋ねます。そして、判断力には少し欠けるものの記憶力は良く、誰が何を言ったのかを大変良く覚えています。そこでの説明が食い違うと本人は混乱し、全てが受け入れられなくなってしまうようでした。それを避ける為にも、誰もが同じことを何度も説明する必要がありました。

関係者カンファレンス開催

1回目カンファレンス

訪問診療開始後1ヶ月の時点で、関係者が集まりカンファレンスを開催しました。出席者は主治医、当院の看護師、訪問看護ステーションの看護師、訪問薬剤師、障害相談員の多職種と、現在は疎遠になっている患者の叔母さんにもご参加いただきました。 それまでにも個別に会ったり電話連絡などは行なっていましたが、一堂に会し議論を行うのは初めてです。

このカンファレンスでは、これまでの経緯と今後の見通しや情報共有の必要性とその方法について話し合いました。精査を行なっていないので予後の判断は困難ですが、恐らく数ヶ月単位であることを主治医から伝えました。また、情報共有の為には「専用ソフト」を使用することも決めました。これは、SNS感覚でパソコンやスマホでも入力が出来、写真や書類の添付も可能です。

2回目カンファレンス

その後、信頼関係を築けた為か本人の受け入れが良くなり、麻薬が再び定期内服可能となりました。疼痛コントロールが上手くいって比較的状態が安定した時に、本人が「スーパーに買い物に行きたい」と言い出しました。この希望を叶える為、再び関係者カンファレンスを開催しました。日程調整と当日の動きなどの確認をして万端の準備を整えました。当日、残念なことに本人が体調不良を理由にキャンセルし、実現には至りませんでした。

3回目カンファレンス

意識状態が悪化し、自宅での生活が困難となり、急遽当院へ入院となりました。予後は数日が予想されました。この時にも叔母さんにご参加いただいてカンファレンスを行い、このまま病院での看取り方針を確認しました。

情報共有ソフトの活用

第1回カンファレンス後にそれぞれの担当者が登録を行い、情報共有ソフトの使用が開始されました。訪問者が毎回、その時の患者状況、服薬状況、残薬数、食事状況、痛みなどの訴え、その他質問内容などを記録します。多い日には、一日に4,5件の情報がアップされます。

私も診療の都度、創部の様子、処置の方法、麻薬を含む薬剤の変更及び本人への説明、今後どうなってゆくのかの見通しについて医学用語を控えてアップしました。看護師からは「医師の説明を受け患者はどう感じているのか、納得しているか、服薬はちゃんと出来ているか、創部の様子はどんな状態か」などの報告があります。訪問薬剤師は、患者さん弟さんのまるで保護者のように仕事を超えた付き合いをしていて、なかなか語られない本音を聞き出し、その情報を伝えてくれました。

亡くなるまでの4ヶ月で441件の書き込みがあり、それぞれに返信やコメントが付きました。患者の情報が共有されることによって、迅速に対応が可能となり比較的安定的した時間を過ごすことが出来たと思います。

多職種連携とはどういうもの?

医師も多職種のひとつであり、訪問看護師、訪問リハビリ・マッサージ、訪問薬剤師、栄養士、ヘルパー、ケアマネージャー、医療器具や酸素の業者などの、多くの人々の働きが在宅診療を支えています。多職種連携とは、ある患者さんに関わりのある全ての職種が連携を取って、それぞれの分野において責任を持って当たることではないかと考えます。

連携はどうやって取ればよい?

一つの事業所内で全ての職種が揃っている場合には、顔の見える関係が既にありますから比較的連携は取りやすいと思います。しかし、現実的にはそれは困難です。異なる事業所の方々も居ますし、それぞれの職種ごとに患者さんと関わる時間帯が異なります。時間的にも空間的にも離れている人が、どのように連携を取るのかが問題です。

連携に必要な条件

連携には顔の見えるネットワーク作りと情報の共有が必要と考えています。

1.顔の見えるネットワーク作り

実際に会って話す機会を作ることが大切です。電話でも済むことはありますが、困難な事例では関係者の「顔の見えるネットワーク」が大きな力となります。時間調整が困難ではありますが、問題発生の都度、サービス担当者会議や関係者カンファレンスを開催することが必要です。

2.情報の共有

多職種連携でやり取りする患者の情報は、内容的には3つあると考えます。

  1. 患者のリアルタイム情報

    今日はどんな様子だったか、食事や睡眠、排便はどうか、患者・家族の悩み等のリアルタイムな情報

  2. 患者に対する説明・指導情報

    医師からの治療説明、薬剤師からの服薬指導内容、リハビリからの体位を保つ工夫や食事に関する提案、看護師からの排便コントロール指導など、それぞれの職種から患者に伝えられた情報

  3. 問題点や方向性の情報

    現在の問題点や将来の方向性など、それぞれの職種で考えている情報

従来から良く使用されている「連絡ノート」では、多職種での意思統一には限界があります。今回使用したようなITツールを使った情報共有が有効だと思います。多職種連携には顔の「顔の見えるネットワーク」と「情報の共有」が不可欠です。