参加しました!退院前カンファレンス

在宅医療の現場から

※初出:どくとるマンボウ在宅記(初出:へるす出版『在宅新療』第1巻第3号)

初回のテーマは「退院前カンファレンス」です。 在宅医として参加する退院前カンファレンスは、病院側とは大きく異なるものでした。

退院前カンファレンスに望む医師の立場の違い

病院側(出し手)の視点

私は急性期、療養型、回復期病院に勤務していたときに、病棟主治医として何度も退院前カンファレンスに参加したことがあります。このとき外部からの参加者は、ご家族の他はケアマネージャー、訪問看護師、リハビリスタッフ、福祉器具業者の方々でした。受け入れ側の医師が参加することはありませんでした。

カンファレンスでは始めに入院中の経過説明を行うのみで、在宅復帰後のサービスなどはケアマネージャーにお任せし中座することも多かった様に思います。

一般的に病院医師は在宅診療の経験がない場合が多く、在宅でのイメージがつかみにくいように思います。在宅でどこまで医療が行えるか、これまでの治療の継続性が保たれるかなど疑問に思っている場合もあると思います。

在宅側(受け手)の視点

退院前カンファレンスは①病院から在宅チームへのバトンタッチの場②患者、家族との信頼関係をスタートさせる場③在宅チーム顔合わせの場ととらえています。

当院では、在宅主治医は退院前カンファレンスに必ず出席します。カンファレンスでの確認事項としてチェックリストを採用しており情報の漏れが無いように注意しています。

カンファレンスに参加することのメリット

医師間の情報共有のメリット

  • 病院主治医と顔の見える関係性が築ける

    これまでの治療経過、今後の見通し、外来通院に必要性などの確認を行うとともに、患者急変時に受け入れ可能か相談することが出来ます。在宅での医療がどこまでできるのか、現在の治療の継続ができるのかという病院主治医の疑問にもお答えすることが出来ます。地域の基幹病院の先生との顔の見える関係を築くことで、専門的意見を伺う際にも質問しやすくなると感じています。

  • 追加検査の依頼が行える

    在宅で実施出来る検査には限りがあり、病院受診も困難が伴うため、今後必要と思われる検査は入院中に可能な限り実施いただくよう主治医に依頼することが出来ます。

  • 投与薬剤の調整を依頼できる

    在宅での薬剤には制限があり、必要に応じて薬剤、投与回数、剤型の変更、調整を退院前に行ってもらうことが可能となります。インスリンについては、回数によってサービスに影響がでることもあります。

  • 本人・家族にどのように病状説明されているかを確認できる(特に末期ターミナルケアの場合)

    入院中に本人、家族に病状、予後の説明をどこまで行っているのかを確認します。本人には病状、予後が伝えられていないケースでは、ご家族の意向もうかがいます。

    予後に関しては、一般的に病院主治医の予後見通しは長めになるように思います。これは、今までの行ってきた治療に対する期待や、本人・家族の心情に配慮があるからだと思われます。一方、在宅医の視点としては、本人に残された時間が短いことから、体力が残っている間に思い残すことのないように、やりたいことをやってもらいたいとの思いがあります。したがってどちらかと言えば厳しめの予後を伝えることが多いように思います。

  • 各種届出、申請の有無確認できる

    介護保険申請、身体障害者手帳、特定疾患の各種届出、申込の有無を確認し、可能であれば入院中に手続きを行ってもらいます。病棟医時代には、各種手続の知識も関心もあまりなかったように思います。しかし、在宅ではこれらの手続きの有無により、受けられるサービスや金銭的負担が大きく関わる重要なポイントになります。円滑に在宅移行するために入院中に行えるものは出来るだけ行っていただけるように、病棟主治医にお願いします。特に平成27年から特定疾患が大幅に拡大されましたので注意が必要です。

家族との情報共有メリット

  • 家族と事前に面談し在宅導入に当たっての不安などを伺う

    病院から家に戻る際には、ご家族はいろいろな不安を抱えています。家でどこまで治療、療養ができるのか、介護の負担が大きいのではないか、費用はどれ位かかるのか、状態悪化の時には入院させてもらえるのかなど。看取り方針であれば、家での看取りは可能か、死とどう向き合うか等々です。こういった不安を一度に伺うことは困難ですが、その場でお答えできることは可能な限りお伝えして、不安を減らせることができると思います。最期はどこで過ごしたいと考えているのか、食べられなくなった場合に胃瘻を入れるのか、末梢点滴を行うのかなどの方針も可能な限り伺います。

在宅医療チーム間での情報共有メリット

  • 在宅医療チームのメンバー確認が出来る

    在宅医療を行うには他職種連携が欠かせません。患者毎に関わる職種は変化しますが、退院前にメンバーの確認が出来るメリットは大きいと思います。以後のサービス導入などが円滑に行うことができます。

  • 患者のADLを直接確認することで在宅でのイメージがしやすい

    紹介状や看護サマリの書面で患者のADLが記載されていることは多いのですが、実際に患者と面会し、主治医やリハビリスタッフから説明を受けるのでは情報量に大きな違いがあります。在宅での生活の具体的なイメージが沸きやすく、各サービス導入方針が立ちやすいと感じています。

  • 在宅医療の投入前に受け入れ側で準備できることを確認する

    病院側の説明を聞いた上で、在宅での具体的なイメージを在宅チームで共有します。そして在宅導入前の福祉用具搬入、住宅改修などの準備を洗い出し、導入後のサービス内容、スケジュールの確認を行います。

カンファレンスに参加して得た気づき

在宅でどのように過ごすのか考えるのは、自宅に訪問したときに始まるのではなく、退院が決定した時点から、もっと言えば入院した時点から始まるのだと改めて気づきました。

在宅にかかわる制度は多岐にわたっており、これらを熟知していないと、本来受けられるはずだったサービスが受けられなかったり、費用が余計に発生するなどの不利益が患者に降りかかることになります。常に勉強が必要だと感じています。

幸い当院では「全国在宅医療テスト」を主催しており、全職種全員受けることが定められています。一定の基準点以下では再試験という厳しい試験です。馴染みにくい用語や複雑極まりない制度を理解することは困難ではありますが、こういった強制力があるからこそ身につく知識だと感じています。

退院時カンファレンスに医師が参加できるのは、人的余裕があり時間調整が行いやすい在宅専門クリニックならでは可能であると思いますが、在宅診療の質の向上には必要不可欠と感じています。