2024年7月20日に行われた第6回日本在宅医学連合学会大会において、ポスター発表をおこないました。
タイトル
在宅移行後からでも間に合う労災障害補償年金・障害年金の申請について
抄録
【はじめに】
労災障害補償年金や障害年金などの公的制度は、受給資格があっても申請しなければ受給できない。また、申請手続きが煩雑であり、結果が出るまでに長期時間を要する。このため時間的余裕のない末期癌の方では、要件を満たしても申請に至らないケースが多い。そもそも制度自体の認知度が低く、医療者から本人家族に情報提供されることも少ない。当院では、「お金」は、患者・家族の療養生活を支える上で、大きな問題と捉えており、積極的に相談に乗っている。時には社労士として申請代理手続きまで行っている。2022年から僅か2年足らずで経験した症例を報告する。
【基礎知識】
石綿による疾病の労災認定(case1,2)
中皮腫、肺がんなどを発症し、それが労働者として石綿(アスベスト)ばく露作業に従事していたことが原因である(業務上疾病)と認められた場合には、労災保険給付または特別遺族給付金が支給される。申請先は以前勤務していた事業所を管轄する労働基準監督署。事業所での就労状況の証明は暴露から発症まで数十年を要するため不明なことも多い。石綿健康被害救済制度により、労働者災害補償法等で補償されない中皮腫や肺がん等でも医療費等の救済給付が支給される制度あり。
障害年金制度(case3,4)
疾病、事故などにより一定の障害を負った方が、請求することで受給できる年金制度。初診日において加入している年金制度、保険料納付状況、原則初診日から1年半経過日(認定日)時点での障害の状態により年金額が異なる。認定日には例外があり、例えばストーマ増設の場合には増設後6ヶ月に短縮される。個人での請求も可能ではあるが、手続きが複雑であること、医師に適切な診断書を書いてもらう必要があることから、障害年金を得意とする社労士に相談することをお勧めする。
- Case1 60歳台男性 悪性胸膜中皮腫患者で明確な石綿暴露歴あり!
訪問診療開始17日目に死亡。約40年前に従事していた企業の在籍確認及び管轄労働基準監督署に連絡をとり、労災申請を援助を行った。
〈結果〉労災認定され障害・遺族補償年金支給となる。
- Case2 60歳台女性 悪性腹膜中皮腫で建設現場事務所勤務歴あり!
訪問診療開始32日目に死亡。約40年前に建設会社現場事務所勤務歴あり。従事していた企業及び管轄労働基準監督署に連絡をとり、労災申請を援助を行った。
〈結果〉審査待ち
- Case3 40歳台男性 S状結腸癌患者でストーマ造設半年経過!
訪問診療開始25日目に死亡。障害年金代理申を行った。
〈結果〉審査待ち
- Case4 30歳台女性 子宮頸がん患者。障害年金を個人で請求するも不支給だった!
訪問診療開始11日目に死亡。夫が認定日請求を行うも、不支給決定通知となった。不服申立(審査請求)を行った。
〈結果〉決定が覆り障害基礎年金支給決定となる。
【考察】
当院のように小規模なクリニックでも、在宅移行後に悪性中皮腫の労災申請、末期癌の障害年金申請を僅か2年の間に数件行った。全国的に見れば相当数が該当するのではと考える。本来、診断した病院で適切な情報提供がなされ、ソーシャルワーカーや社会保険労務士等の専門家が適切に関与することで、円滑に申請手続されるべきである。しかし現状は、未申請のまま看取り段階で在宅診療が開始されるケースも多い。医療者としては、まず制度の存在・概要を知り、適切に専門職に繋げることが肝要と考える。